日本相撲協会の巡業で、挨拶をした市長が突然土俵で倒れ、協会の関係者男性が何もできない中、看護師の女性が土俵に入って救急処置をしようとしたところ「女性の方は土俵から降りてください」と行事がアナウンス。これにより、「伝統って一体なんだ?」という議論が発生しました。命がかかっている時に伝統なんて言ってる場合か? というものですが、行事は看護師の後に入ってきた女性に対して言ったつもりだった、といった報道もあります。若い行事が動転してしまった結果でもあるので、若干の同情の余地はあるものの、お前、生きてたからまだしも、死んでたらどうするんだ? と多くの人にモヤモヤした感覚をもたらした騒動となりました。

さて、そんな中、4月19日(木)、下北沢B&Bにて『藤井青銅×中川淳一郎 「それって本当に伝統ですか? 会議」『日本の伝統』の正体」(柏書房)刊行記念』を行います。藤井さんとお会いするのは初めてですが、同氏の著書『「日本の伝統」の正体」の内容を基に、いわゆる「伝統」について藤井さんに色々伺うとともに、私自身も伝統というものは苦手なため、伝統に対してツッコミを入れていきたいと思います。

「日本の伝統」の正体
藤井 青銅
柏書房
2017-11-23


同書では「初詣はそんなに長い伝統ではない」などに加え、様々な伝統が百貨店の誕生に伴う商業的なものであったことなどを記します。「江戸しぐさ」にしても平賀源内の「土用の丑の日は鰻を食べよう」にしても胡散臭い面はあるわけで、とかく我々は「伝統だから」に弱い。

また、私自身「前例だから」とか「慣例だから」いう言葉も大嫌いです。いやいや、このケースではその前例も慣例も関係ないからさ、と言いたいわけです。

かといって、すべての伝統、前例、慣例が嫌いというわけではなく、時にはそういった杓子定規的なものがあってもいいかな、と思います。それは「正月は休む」という伝統です。昨今コンビニやファミレスも24時間365日営業を見直す方向になりました。この20年程、「お客様の利便性」のために各種店舗は24時間365日営業という無茶苦茶なことをやり続けたのです。

それが昨今のブラック労働問題などもあり、「さすがに伝統的な日本の正月に戻せばいいんじゃね?」という空気が流れ、ようやくボチボチと休むようになってきました。そしてコンビニをめぐっては今年の節分、「伝統の虚飾」が白日の下に晒されたという騒動がありました。いつしか日本中の伝統ということにされた「恵方巻」の販売ノルマが厳しいことや、大量に作り過ぎて廃棄され豚の餌になる様子などが今年は衝撃を与えました。

本書によると恵方巻は元々は1932年に大阪鮓商組合後援会が「節分の日に丸かぶり」という宣伝チラシを作ったことや、1951年に大阪海苔協同組合が「巻きずしの丸かぶりの宣伝を行い、大きな成果をおさめた」とある、という事実が紹介されました。なんのこたぁない、「恵方」自体は1045年の歴史を持つものの、「恵方巻(の原型)」になるとたかだか85年ほど。結局は鮓と海苔の組合の販促キャンペーンだったわけですよ。しかも、これらの「巻きずしの丸かぶり」をセブンイレブンが「恵方巻」としたのは1998年。たったの20年の「伝統(笑)」なわけでした。

伝統の重視は時に尊いものではありますが、廃れるのも伝統。秋田の「なまはげ」も存続が危ぶまれている、などと言いますが、こちらはテレビで見ている分には面白いですが、正直他人が自分の家にやってきて大騒ぎするのがイヤ、という人がいる気持ちも分かります。昔は「エロなまはげが酔っ払って女風呂に侵入」みたいなものもあるので、「伝統を残したい人は残せば? ただし、それを他人に強制したり、嫌がる人に協力を呼びかけるのはやめてね」と言いたいところです。

19日、B&Bではこういったことを多数の実例とともに藤井さん、そして司会の紐野義貴さんと一緒に語り合っていきます。