仕事をしていると、取引先や現場で頑張る同僚のために「差し入れ」をすることもあるだろう。しかし、差し入れは難しい。生半可なものを差し入れると「ケチ」だの「心がこもっていない」「その場しのぎ」だの陰口をたたかれ、挙句のはてには「センスがない」なんて言われてしまう。それに引き換え、芸能人の豪快な差し入れが時にニュースになるが、それらこそ、差し入れの重要性を示しているといえよう。スターとは多くの人から憧れられる存在であり、その豪快さを見せつけるのにもっとも分かりやすいのが「ダイナミックな差し入れ」だからである。
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 最近でも元SMAPの3人が登場したAbemaTVの『72時間ホンネテレビ』で笑福亭鶴瓶が稲垣吾郎の“もしもの結婚式”に4500円の鰻重をスタッフの分も合わせ200人分送ったことがニュースとなった。

 なお、本ブログに登場する写真は本文とはまったく関係がない。食べ物の写真を何枚か挟みたいだけなのであんまり気にしないでください。まずは、私も編集に携わっているNEWSポストセブンに掲載した過去の「差し入れ記事」のタイトルと補足すべき点を解説する。

「金スマで高級寿司150人分差し入れの中居正広 収録では緊張」
(2016年のSMAP解散報道直後の話。タイトル通り)

「連ドラ主演の米倉涼子 1個5000円の高級弁当100食を差し入れ」(叙々苑の高級店舗“游玄亭”の焼肉弁当)

「新月9ドラマ主演の木村拓哉 取材陣に大量ドリンク差し入れ」
(残暑厳しい中、月9ドラマ『PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!~』(フジテレビ系)は撮影された。取材に来た多くの取材陣を気遣い、よく冷えたドリンクを急遽木村が大量に差し入れた)

「SMAP香取慎吾 橋田壽賀子さん差し入れのゆで卵が大好き」(橋田氏の地元・静岡県熱海市の味付けゆで卵を香取はスタッフのために30個差し入れ。そして自分もパクパク平らげた)

「山岸舞彩の玉子焼き大量差し入れに日テレは若手総動員で完食」(『ニュースZERO』のキャスターに就任した山岸の実家である東京・築地の「山勇」看板商品である玉子焼きが15~20箱届いた)

「大泉洋 スープカレーの差し入れがしつこすぎてスタッフ辟易」
(北海道出身の大泉がプロデュースするスープカレーを差し入れ。当初は好評ではあったものの、あまりにも差し入れ頻度が高く飽きられた)

「テレビ制作現場への差し入れで有名な“縁起物”のいなり寿司」(これは芸能人からというわけではないが、六本木「おつな寿司」のいなり寿司が業界では人気という話。理由は、油揚げを裏返しにしてからシャリを詰めているため“裏を食べる”=“裏番組を食う”というゲン担ぎになっているため)

 こういった話は他にもないかと関係各所に問い合わせたところ、以下のようなエピソードが紹介された。
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【浅井企画社長から100人分の鰻重】
 萩本欽一、小堺一機、関根勤、キャイ~ンらを擁する大手芸能プロ・浅井企画社長・浅井良二氏は、人格者として知られ、所属タレントは同氏を相当慕っている。同事務所のお笑いライブが行われる場合は、若手芸人が多数出演し、大勢のスタッフがかかわるが、浅井社長は毎回全員分、約100人分の鰻重を差し入れるのだという。まだ売れていない芸人からすれば、今や3000~4000円はザラの鰻重を食べられるというのは「ラッキー!」だと思う他、次のライブにも出るための励みにもなる。

【比嘉愛未・田村正和・デビット伊東差し入れ伝説】
 某ドラマに出演した比嘉愛未だが、撮影現場に差し入れたのはまさかの「クレープカー」。時々クレープを焼くワンボックスカーを見ることもあるが、それを現場に呼んだのである。出演者・スタッフは、自分の好きなクレープを好きなだけ焼いてもらい大満足だったという。こうしたダイナミックな話でいえば、田村正和がスタッフ全員を屋形船に招待し、飲めや食えの大盤振る舞いをしたそうだ。また、俳優でありながら、ラーメンチェーンを経営するデビット伊東は、自らが出演するドラマにラーメン店のスタッフを出張してもらい、その場でラーメンを作り、スタッフにふるまってくれたことがある。現在伊東が経営する「でびっと」は国内6店舗、海外2店舗を展開中。

◆差し入れだらけになっちゃわないの?

 こんな話があるわけだが、気になるのが冒頭でも紹介した「中居正広が寿司高級寿司150人分差し入れ」や「米倉涼子が5000円焼肉弁当100人部差し入れ」、それに比嘉、伊東といった大規模な差し入れが他人とかぶらないのか、という点である。いくら過酷な現場であろうとも、高級寿司、高級焼肉弁当、クレープカーが勢揃いしてしまったら、全部食べられるわけもないし、誰かの面子を潰したり、食品ロスが出る恐れもある。これについて、ドラマの制作スタッフは「安心してください」と語る。

「タレントサイドからは事前に『こういった差し入れをしたいのですが…』という打診がマネージャーからディレクターなど、番組の制作スタッフに寄せられます。これを受けてディレクターは、ロケ場所がどこであるか、果たして大規模にしてもスペースがあるか、などを鑑み日程を決定します。差し入れをいただくのも日程・場所の調整ありきです」


 差し入れのオファーは、複数のマネージャーからあるが、ディレクターはそれらをすべて把握しており、交通整理を行う。そのため、大型差し入れがかち合うことはないようだ。そして、差し入れにあたって重要なのが「順番」と「内容」である。同スタッフはこう語る。

「ドラマの場合、主役以外の人間は、主役の出方を伺います。時期に関しては、必ずしも最初や最後の撮影で主役が出す、ということはありません。ただし、主役以上にグレードの高い差し入れをしないようにするような配慮はします」

 となれば、主役が一流の寿司屋に現場で握ってもらうような差し入れをした場合、それ以外の人はまずは寿司は避けるだろうし、高級焼肉弁当にとどめる、といった配慮をするということだ。また、主役よりも先に差し入れをする場合になれば、最上級の差し入れはせず、「ありがたいけど、そこまでのサプライズはないものにする」といった駆け引きも求められるようになる。
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◆神田うの、押切もえ、森光子の差し入れ伝説

 そして、凄まじい伝説を誇るのが神田うのである。芸能人としても、実業家としても大成功し、夫はパチンコチェーン「エスパス」を運営する日拓グループ代表取締役社長の西村拓郎氏である。ただし、ここから紹介する話は結婚前、神田自身がプロデュースするストッキングが大ヒットし、「ストッキング御殿」を建てた頃の話である。これについて女性誌の編集者が語る。

「撮影をした前日、彼女はハワイから帰って来た時でした。クロエとかレイバンとかドルチェ&ガッバーナ(ドルガバ)の(免税品販売の)DFSで買ったっていうサングラスをDFSのビニール袋に100個くらい持って来てくれました。〇〇さんにはこれが似合う、××さんにはこれが似合うっていって、ひとりひとり、スタッフにお土産として配ったんですよ! これらのサングラスって1本あたり1万5千円~3万円くらいの高級品で、すげーなーって思いましたね」

 ほかにも、モデル・押切もえが過去に「キヨラ」というオリーブオイルの広告にかかわっていた際、雑誌の撮影時に1本500mlのものを約20本自分で持ってきて、スタッフにお土産として配ったのだ。仕事といえば、仕事ではあるものの、こうして自身が広告塔を務める商品のPRのためにこうした草の根活動をしている点について、スタッフはプロ意識を感じたのだという。

 ほかにも、『アッコにおまかせ!』(TBS系)に森光子が出演した際、200人はいるという関係者全員に高級中華まんを提供したという話も聞いた。あとは、ホリプロ所属の伊集院光は、事務所に所属する若手芸人の「ネタ見せ」の際は、ネタを見せる30人ほどの芸人全員分のケーキを用意してくれたこともある。

◆とにかく守らなければいけないルールもある中、ざっくばらんな藤原紀香の好感度UP!


 ここまでは芸能人による差し入れを紹介したが、芸能人に対して差し入れをするには注意が必要なこともある。某人気男性アイドル・Xは、食事時に楽屋を用意する場合はアツアツのピザとグラスに氷の入ったコーラを用意しなくてはいけない。事前にマネージャーの「ピザの熱さ」「コーラはキチンと氷が入ってるかどうか」のチェックがあるのだが、これらを用意しつつもダメ出しをくらった雑誌編集者もいる。

「Xはコーラにストローがないと飲めないんですよ……」

 そうマネージャーから言われ、そのスタッフは、走って外へ。その取材をする場所の周辺はコンビニもあまりないような場所だったのだが走り回り、なんとか飲食店を見つけ、ストローを一本確保したのだった。ほかにも、某女優Pは、オーガニックのものしか食べないとのことで、通常の仕出し弁当は食べられない。現場に炊飯ジャーを持ち込んで、玄米を炊いたりするのが基本的なスタイルだ。この「オーガニック主義」は他の女優にも広まっており、ドトールのサンドイッチについて「ウチの〇〇はオーガニックしか食べないんですよね~」と拒否されたそうだ。

 こうした面倒くさいレギュレーションがある中、好感度が高かったのが藤原紀香である。テレビのADが語る。

「藤原さんほどの方だったら、あのナイスバディーを維持するためにこちらも食べ物に気を遣わなくちゃとか、オーガニックじゃなきゃだめかな、とか思っていました。でも、紀香さんは、『今ダイエット中なの~』と言って、自分でコンビニのおでんを買ってきてそれを食事にしていたんですよ! 正直面倒くさいタレントさんが多い中、紀香さんへの好感度がスタッフの間で激上がりになった瞬間でした」

 こうした芸能人による差し入れの話題を紹介したが、一般人にとってはいかにして差し入れをすればいいのか。今回話を聞いた人々は「差し入れ伝説」を知る立場にある一方、自らも芸能人や仕事相手に時々差し入れをする人々である。基本的には「その人が何が好きかを聞いておく」「その人が喜ぶものを持っていく」のが重要だと答えていた。或いは「なかなか手に入らない話題のもの」も効果があるそうだ。週刊誌の編集者が語る。

「とある大御所カメラマンは、神田小川町にあった“エスワイル”という洋菓子店のモンブランが大好きでした。このモンブランは栗の時期にしか売らないものだったのですが、その時期になると私は毎年モンブランを持って彼のところへ通ったものです。あとは、芸能人の撮影などの現場では、基本的なお菓子を紀伊国屋でちょっとつまめるオードブル、お菓子、そしてフルーツを買って持っていきます。あとは、神保町の“ささま”という和菓子屋のお菓子は、常に喜ばれますね。とにかく相手の方がどんなものが好きか、は事前に把握していた方がいいです。のん兵衛の方に甘いものを持っていったら『オレは塩っ辛いのが好きなんだよ。酒のつまみになるようなものがいいなァ……』なんて言われたこともあるので、以後つまみの類だけを手土産にしています」
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◆放送局敏腕営業マンの差し入れ術

 しかし、こうした配慮が裏目に出たケースもある。女性誌のライターが語る。

「以前、小川菜摘さんの撮影の時、彼女がみたらし団子が好き、っていう情報がありました。だから、私はみたらし団子を持っていったのですが、その時一緒に撮影をした野沢直子さんの事務所の人もみたらし団子を持ってきたんです。しかも小川さんご本人も持ってきて、あと、他の誰かも持って来ていて、みたらし団子だらけになって、“そんなにたくさんみたらし団子ばかりいらんわ!”って話になりました」

そして、某放送局の敏腕プロデューサーは、一般人にも使えそうな同社の敏腕営業マンによる伝説の差し入れ術を語る。

「その方は、ペニンシュラホテルのXO醤を取引先への手土産にしたそうです。一瓶200gで6000円もするものです。それをあげると何がいいか――。奥さんが使うわけですが、奥さんは“これすごくいいね!”と言ってくれるわけで、時限爆弾みたいに家庭の評価が上がるんですよ! そうすれば、その方の評価も上がるわけです」

 また、同プロデューサーは、舞台やライブの仕事も手掛けているが、演者に対しては、基本的には(長期にわたる公演の)前半には日持ちするお菓子や栄養ドリンク、そして喉をケアできるものを用意するという。そして、後半はとにかく味がおいしいものや、喉に良いとされるマヌカハニーの飴を持っていくようだ。ただし、奇をてらいすぎると滑るとのことで、パクチー好き演者がいるからといい、パクチーを大量に持ち込んだ人間もいたがそれはあまり歓迎されなかった。そして、差し入れ術についてはこう語る。

「差し入れが上手な人は、仕事できる人ですよ。最寄り駅の構内にあるチェーンのケーキ店みたいに、明らかに途中で買ったようなものを差し入れる人はダメです。それと包むものも大事です。中身が安くても桐の箱に入れるとかし、差し入れをした時に“高そうに見える”ってのが大事なんですよ。こうした点ができるかどうかで出世にもかかわってきます」

 さて、最後に今回取材した方が「これは絶対にはずさない!」と述べる差し入れの商品を紹介しよう。

ジャン=ポール・エヴァン(東京ミッドタウンや銀座三越)のチョコレート

天のや(様々な場所にあり)のたまごサンド

テオブロマ(東京都渋谷区富ヶ谷)のチョコレート及び焼き菓子

 それでは皆さんも素敵な差し入れライフを!

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