今年初頭、意を決して「今度、飲み会にいらっしゃいませんか?」とお誘いしたライター・イラストレーターの吉田潮さんの新著
(KKベストセラーズ)が発売されました。さて、本書は現在45歳の吉田さんが、結婚、妊娠、出産、不妊治療、堕胎手術など個々人の人生において非常にクリティカルな場面をつぶさに綴った書であります。前半の本書のイメージは「この女、エロいことばかりやってるな、ガハハハハ」といったお笑い的な側面もあるのですが、途中からかなりシビアになってきます。そして、その後、吉田さんはどう吹っ切れ、「出産しないことは逃げ」という世間様による「空気」とどう対峙するかが肩の力が抜けた形で描かれていきます。

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(2016年末~2017年初頭、バンコクのホテルで仕事していた時の様子)

本書では、半ば都市伝説に近い「性行後は逆立ちになる」を実践した話やら、不妊治療にいくらかけたか、といった話も出てきます。また、吉田さんは本当に子供が欲しかったのか? という点についても長年考えた末の結論を述べたり、過去には苦手だった子供の話題を克服するまでの経緯なんかも書いています。

元々なんで私が吉田さんを飲み会に誘ったかといえば、彼女に一度会いたかったんですよね。当時、週刊新潮の連載陣では壇蜜に次ぐ若手2、3といった状況(オレ、43歳、吉田さん44歳って、これも相当高齢だな)にあり、どことなく彼女のズケズケと悪口を言う文章は好きでした。大体人間というものは、文章を読んでいれば気が合うかどうかはわかるものでして、多分吉田さんとは気が合うことが分かったのですね。

この会自体は同世代の中年が集う会で、ボス的存在の女性漫画家が「私の好きそうな人を呼んできなさい!」と命令し、彼女が第一幹事、私が第二幹事のような感じで人集めをしていたのです。多分その漫画家と吉田さんも気が合うと思ったし、私自身も会いたかった。結果は大成功。漫画家は「潮さん、いいわねぇ!! 中川さん、呼んでくれてありがとう!」となったのでした。

そして、我々は温泉旅行にも行くようになったのですが、たまたまそこにいた女性5人中4人が子供がいないことが判明。吉田さんは酔っ払いながらも自分以外の3人に取材をし、「産まない人生」について話を聞いたのです。私も子供はいないので「なぜいないのか?」といった話は聞かれました。

基本的に私は「少子高齢化で日本の国力が下がる」といった論は嫌いです。「そうなったらなったで仕方ないだろ」としか思えないんですよ。ドイツだってフランスだって台湾だって日本よりも人口は少ないながらもそれなりに稼ぐ国だし、人々はけっこう幸せそうですし。

こうした「国力」の話に持っていかれるとまさに「子供を育てない人間は非国民」的な扱いになってしまう。また、私自身も「中川は子供つくらないのか?」みたいなことを言われるのですが、私自身、昔から「結婚をする」とか「子供を作る」とか「結婚式をする」とか「定年まで勤める」とか「孫にお年玉をあげる」とか決めていなかったんですよね。

なんとなく漠然と「大学に行く」「大企業に就職する」という世間が言いがちな「レール」は乗ったのですが、これは合理性があると考えたんですよ。そこまで経験したらあとは自分が思った通りに生きればいいかな、と思い今に至っています。

子供がいなくてさびしくないのか?

子供がいなくて張り合いはあるのか?

子供がいなくて将来は不安じゃないのか?

これぐらいの質問ならばいいのですが、「なんで作らないの?」「奥さんはそれでいいの?」「子供っていいもんだぞ!」ともなるともはや「お前頭おかしいのか?」「お前、常識ないな」と言われているようなレベルになっています。

◆常識と世間の空気って一体何なんだ?

かといって、こういった質問をしないでくれ、と言ってるわけではありません。「お前の常識とオレの常識は違うんだよ」ということでしかないのですよ。

黒い鞄を持っていた場合、「なんでお前、黒い鞄を使ってるんだよ」なんて言わないだろうし、魚の方が肉よりも好きでも「なんでだよ!」なんて聞かないし「肉食わなくちゃダメだぞ」なんてことも言わない。「あぁ、お前は魚が好きなんだな。でも、オレは肉が好きだから次は肉頼ませろよ、いいだろw」みたいな話でいいじゃないですか。

女性の中には子供の有無を聞かれてショックを受ける方もいらっしゃいます。それは、自身の身体と関係するからというのも理由でしょう。その点、男である私自身は子供の有無について聞かれることに対してまったくショックも受けません。

「あっ、失礼なことを聞いたね…ごめん」なんて言われることもあるけど、全然失礼じゃないんですよ。子供と共に生きる人生を想像したこともないので、自分にとっては子供の有無というものは悩みにも喜びにもならない。それだけです。子供がいて幸せな人生を送っている人は「よかったね」と言いたいし、子供が欲しくてたまらない人がいるのであれば、その人を応援する。子供がいらない人、むしろ嫌いな人も「それもあなたの人生」と尊重するというか、無関心でい続ける。これでいいのではないでしょうか。

まぁ、こういったことはネットに書くと炎上しがちなのですが、この面倒くさいテーマについて書いたのが本書です。あと、基本的に吉田さんは文章がうまいので、エッセイ執筆の参考書としても使える本になっています。

また、書店B&Bにて9月20日に吉田さん、サンドラ・ヘフェリンさんと本書刊行イベント行います。そちらもよろしければぜひ。